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もるたん主義

国際政治学のブログ

国際システムのパワー分布

国際政治の基本 パワー 国際システム

◆国家主権――形式的な平等

国家間の関係は、形式的には平等で対等な関係です。実質的には多くの不平等があり対等とは言えない関係がほとんどですが、形式的には平等、対等ということになっています。

そして、すべての国家は「主権」を有します。主権は対内的にはある領域における最高統治権であり、対外的には内政干渉を排する独立権です。国際政治において「国家が主権を有する」とは、一般に領域外からの支配や干渉を排除する権利をもつということを指します。

前回の話とリンクさせれば、国家間の対等な関係に加え、主権国家より上位の権威が存在しないということの必然的な帰結として、無政府状態(アナーキー)が生じるということになります。つまり国際システムは「相互に対等な、独立した諸国家が並列するシステムである」といえるでしょう。その限りで、国際関係は「ヨコ」の関係であるように見えます。

◆大国と小国――実質的な不平等

確かに国家間の関係は形式的には対等ですが、しかしその実態はとても対等であるとは言えません。有している領土や領海の面積、天然資源の量、経済規模、科学技術、教育水準、そして軍事力。国家間に配分されている資源は非常に不均等です。

例えば日本は世界第三位の経済大国であり、東京の経済規模だけでもインドネシアやオランダのGDPを上回っています。リヒテンシュタインサンマリノといった小さな国は、日本の多くの大学より、その人口も面積も小規模です。*1

諸国家に配分されている資源の著しい不均衡により、国家間に権力関係が生まれます。「パワー(権力)」を媒介にした関係が生じるのです。パワーとは何かという話を始めると終わらなくなりますので、別の機会で詳しく議論しましょう。ここではとりあえず、国家の総力や能力のことであり、軍事力や経済力や人口などの資源から構成されると考えておいて下さい。

「強い国」「弱い国」「大国」「小国」とは要するにその国がもつパワーの相対量(他国と比較した量)をイメージした表現です。強い国は紛争を自国に有利な形で解決させることができたり、弱い国に対して自国の要求を押しつけたりすることがあります。ここに、国際関係の「タテ」の関係を見出すことができます。並列関係に見える諸国家の関係には、実は階層関係があるということです。

実際のところ、この階層関係はいくつかの条約によって明文化すらされています。例えば国連安全保障理事会では、5大国が常任理事国として固定されています。さらにこの5大国は核兵器の保有を許されています。*2また国際経済や国際金融の専門機関の多くは、各加盟国の出資額に応じた加重投票制を採用しています。

◆3つの典型的なパワー分布

諸国家に配分された資源の不均衡により、国際システムにはパワー分布の偏りが生じます。「米国による一極支配」「米ソ二極構造」といった単語を見たことがある人もいるでしょう。これはまさにパワー分布の特徴を表した単語です。

パワー分布の様相は典型的には3種類が考えられます。

  • 単極構造…圧倒的なパワーをもつ1国によって支配されている国際システム。
  • 二極構造…2つの大国が傑出したパワーをもって君臨する国際システム。
  • 多極構造…同等のパワーをもつ大国が3ヶ国以上存在する国際システム。*3

の3つです。二極構造の時代として真っ先に思い浮かぶのが米ソ冷戦時代ですね。多極構造が成立していた典型例は19世紀のヨーロッパや20世紀前半の世界です。ソ連崩壊により米国が唯一の超大国として傑出した1990年代は、単極構造に極めて近い状態であったと言えるかもしれません。

国家間のパワー分布と階層関係をイメージした図が、以下の3つのピラミッドです。

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パワー分布の状況と国際システムの安定性の関係については、長く議論されています。ここで国際システムが「安定している」とは、大規模な戦争、特に世界戦争が起きていない、かつ起きにくい状況を指します。どのようなパワー分布の時、国際システムは安定するのか。この問について、様々な理論が提唱されています。いつか紹介したいと思います。

◆その他のパワー分布

上で紹介した3つのパワー分布の様相はあくまで典型的な3種であり、現実には変則的な分布がいくつか考えられます。例えば故・ハンチントン教授は「一極的多極性」という概念を示し、中国の国際政治学者も現在の国際システムの構造を「一超多強」と表現しています。これは、アメリカは依然として超大国であるが、いくつかの大国が君臨している今日の世界を的確に表しています。*4

さらにリチャード・ハースは「無極」という概念を提示しました。無極とは、少数の極にパワーが集中する多極とは異なり、数十のプレーヤーが大きなパワーを行使するシステムです。さらにそのプレーヤーは主権国家に限定されず、地域機構、多国籍企業、NGOやテロ組織など実に様々であり、パワー拡散の極地ともいえるシステムです。今日の世界は無極化が進行中であるという議論も強い説得力をもちます。

◆◆◆

第二回「国際システムのパワー分布」は以上です。

最後まで読んで下さったみなさま、どうもありがとうございました。

*1:リヒテンシュタインの人口は37286人、これは早稲田大学学部生の人数43440人より少なく、サンマリノの人口31595人は立命館大学の学部生の人数32301人より少ないのです。二国の人口はThe World Bankより2014年のデータを、大学の学生数は大学HPより2015年度のデータを引用。

*2:米国、英国、ロシア、フランス、 中国の5ヶ国が、NPT(核拡散防止条約)によって核兵器の保有を認められています。インド、パキスタンイスラエル北朝鮮の4ヶ国も核兵器を保有していますが、NPTに加盟していません。

*3:「多極」とは言うものの、10や20もの大国がひしめき合っているわけではなく、通常4~6ヶ国からなります。

*4:冷戦時代も、60年代にフランスと中国が核を保有し強い自己主張を始め、「二超多強」と呼び得る状況が見られました。